春先に増える世渡り上手な「溶連菌」　放置すると発疹も

　新学期も始まり、保育園や幼稚園、小学校デビューしたお子さんをお持ちの方も多いと思います。新型コロナウイルス感染症もそうですが、集団生活になるとどうしても気になるのが感染症ですね。 　人が交流する限りは、うつし、うつされる病気ですから仕方ありません。そこで、今回は集団生活でかかりやすい感染症を一つ紹介したいと思います。 ■コラム初回のテーマは「溶連菌」 　

「溶連菌（ようれんきん）感染症」です。 　たくさんある中でこの細菌を選んだのには理由があります。一つは、春先に多い感染症ということです。もう一つは、私のイラストが使えるということです！　どちらかというと後者の方が重要だったりします。 　さっそくですが、溶連菌という名前を聞いたことがありますか。 　

子どもがかかる病気で、38度くらいの熱とともに「お母さん、のどが痛いよ～」と発症するあれです。 　思い当たる方も思い当たらない方もいるかもしれませんが、そんな病気です。 　のどに感染して炎症が起こる病気を咽頭炎（いんとうえん）と呼びます。溶連菌も咽頭炎の原因の一つですが、ペニシリンという薬（抗菌薬、抗生物質）がよく効き、1～2日くらいで熱が下がります。 　

薬をのむ期間は、薬の種類によって異なりますが、通常は5～10日です。飛沫（ひまつ）（つばやくしゃみなどのしぶき）によって人から人に感染します。 ■放置すると重症化することも 　多くは軽症ですが、放っておくと咽頭炎だけではなく、発疹で全身が真っ赤になるなど、重症化することがあります。咽頭炎の段階で早めに治療すると、重症化を防ぐことができます。 　

のどの痛みと発熱があれば、早めに病院を受診しましょう。 　インフルエンザと同じように、のどにいる菌を棒でぬぐい、5～15分程度で結果がわかる迅速検査がありますので、主治医にご相談ください。学校などでの流行状況も医師に伝えるといいでしょう。 　もう一つの注意点は、まれではありますが、後遺症として「リウマチ熱」や「急性糸球体腎炎」を起こすことです。 　

細菌自体が起こすというよりも、細菌に対する人の免疫反応によって起こります。リウマチ熱は発疹や関節痛など、急性糸球体腎炎では血尿などの症状が出現しますので、早めに発見することが重要です。 ■本当の名前は「血を溶かす」？　おそろしい別名も 　

さて、何となくかわいらしい響きの溶連菌（私だけですかね）、なぜそう呼ばれるか、ご存じですか。実は、溶血性レンサ球菌という「血を溶かす」と書く少しおそろしい名前の略です。 　溶連菌は、Ａ～Ｖ群までに分類されており、単に溶連菌と言えば、通常はＡ群溶連菌を指します。このＡ群溶血性レンサ球菌はもっと怖い別名を持っています。 　その名も「人食いバクテリア」、英語でも「flesh

eater（肉食い）」と呼ばれます。どちらも主にメディア用語ですが、劇症型溶連菌感染症という致命率の高い病気を起こすことが怖い別名の由来です。 　多くは傷口などから溶連菌が侵入し、急速に病気が進展して命まで奪う感染症です。 　ちなみに、「人食いバクテリア」として、Ａ群溶連菌が最も有名ですが、ビブリオ・バルニフィカスやウェルシュ菌などの別の細菌を指すこともあります。 　

そんな細菌がのどにくっついていると考えたらちょっと怖いですね。 　でも大丈夫です。 　咽頭炎から劇症型溶連菌感染症になるわけではありません。溶連菌による咽頭炎は、幼児から小学生に多い感染症ですが、劇症型溶連菌感染症は子どもから大人まで幅広い年齢層にまたがり、特に30歳以降に増加します。 　

劇症型の場合、感染の仕方も咽頭炎のような飛沫による感染ではなく、多くは手や足などの傷などや粘膜から感染し、人から人への感染もほとんどありません。 　世渡り上手で次々に咽頭炎を引き起こす溶連菌がいる一方、劇症型を引き起こす世渡りが苦手な溶連菌もいるようです。毒が過ぎると近づきにくいのは、人も菌も同じですね。 　

劇症型の頻度はそれほど高くないので、けがをしたからといって必ずしも感染するわけではありませんが、傷口を清潔にしておくことは重要です。 　また、傷口が腫れたり、痛みが出たり、熱が出るなどの症状が見られた場合には、早めに医療機関を受診して下さい。特に、糖尿病などの基礎疾患を持っている方は要注意です。 　

集団生活で流行する感染症は溶連菌以外にもあり、特に夏になると、手足口病、ヘルパンギーナ、プール熱など、目白押しです。 　どんな感染症があるか、もう少し詳しく知りたい方は、「学校保健安全法施行規則」で検索してみてください。 　

学校保健安全法で出席停止が定められている感染症については、欠席扱いにならないって知っていますか。この法律ではエボラ出血熱などの致命率の高い感染症や、インフルエンザなどの学校で広がりやすい感染症を、第1種から第3種の感染症に定めており、必要に応じて出席停止にできることが決まっています。 　

この出席停止は、本人の意思で休むのではありませんので、「欠席」ではありません。つまり、出席日数に影響しません。 　「じゃ、職場でも欠勤扱いにならないの？」と淡い期待を持った方もいるでしょうが、残念ながら社会人の場合にはルールが異なります。 　

学校保健安全法の範囲は、あくまでも、幼稚園・小学校・中学校・高等学校・特別支援学校・大学などに通っている児童・生徒・学生らが対象となります。ただし、同様のルールを作っている職場もありますので、各職場でご確認を！（アピタル・染方史郎）